函館のラーメン開化
昭和20年代、函館市内の松風町周辺は東日本有数の歓楽街として繁栄していた。
「当社が創業した昭和20年〜30年代にかけては製麺組合加盟業者が60社以上もあったと聞いています。現在、函館市内及び近郊で製麺業を営んでいるのは4社を数えるだけです」と話すのが、出口製麺株式会社の干場庸稔(ほしばつねとし)営業部長。
出口製麺は、昭和21年、初代の祖父出口末治が創業した。当時はラーメンがポピュラーな食べ物ではなかった時代なので、その初代がラーメン店主から麺作りを教わりながら生麺を作っていたという。
二極化する業界の現況
現在、食の安全を渇望する時代背景から、製麺業界では、衛生面に関わる設備投資が増えて経営を圧迫している。また他方では、卸価格の下落が影を落とし、厳しい経営環境下にあるという。
麺の流通は、業務店(ラーメン専門店や一般飲食店向け)と食品スーパーやコンビニエンスストアなど小売店向けの対応とに二極化している。
販売先が量販店・小売店向けの場合は、日持ちのよさが第一条件となる。一方、業務店向けの場合はプロの料理人仕様なので、味と風味にこだわることになる。
出口製麺は、函館市内及び地方・近郊の業務店向けに、生ラーメンや生そば、餃子、焼売(しゅうまい)の皮を卸している。売上は生ラーメンが80%〜85%の割合、それ以外の商品として生そば、餃子や焼売の皮などがある。
「餃子、焼売の皮は、函館における唯一の業務店向け生産工場になっています。これらを市内、近郊のホテルや中華料理店向けに卸しています。プロ向けですからやはり、品質と質感にこだわって作っています」。
消費者の嗜好の変化や多様化という時代の流れから個性を打ち出す業務店が増え、そのニーズに対応した特注麺づくりが多くなってきている。
新商品「お土産ラーメン」
さて、今、出口製麺が取り組んでいるのは、評判のラーメン店の味を忠実に再現する「お土産ラーメン」だ。
麺、スープ、具、すべて生にこだわった自信作。麺はもちろんラーメン店に納めているものを使い、スープや具も店の味のデータをもとに再現した。時と場所とを自分で選んで、評判のラーメン店の味が楽しめる。高価だが美味しい、麺のイメージを一新する、まさに究極の贅沢商品「お土産ラーメン」という新ジャンルのラーメンが、今春から発売される予定だ。
「生麺の日持ちや具の質感を出すことにも苦労しましたが、もっとも重要なポイントは麺・スープ・具材料、味のバランスを組み合わせること。これが難しかったですね」。
永年培ってきた信頼関係から、業務店からの強力なバックアップを受けて取り組んでいる。成功すれば「行列のできる店」のブランドで、自宅で名店と同じおいしさが味わえるはずだ。
「縮小している業界ですが、見た目は奇想天外、中身は正統派をモットーにチャンスの芽をつかみ、新たなマーケットを開拓することに前向きでありたいですね」。干場さんの眼がきらりと光る。
センターを活用して「水の動き」を知る
出口製麺では、全国レベルで販売出来るよう自社オリジナルの製品開発を進めている。麺のイメージを崩す商品づくり、「日持ちしながらおいしいものをつくりたい」という相反する命題に、道立工業技術センターとともに共同研究に取り組んでいる。
「一般に生麺は、腐敗を防ぐことと、取扱いの簡素化を目的として添加物を使用しているのが現状です。しかし添加物添加量を抑え、小麦粉に配合する水の動きを調整することで腐敗を遅らせることができます。当社では、小麦の風味を最大限に生かせるように、菌の繁殖に関係ある水に着目しました。そして、工業技術センターと水分活性をコントロールできる研究に取り組み、数値データを積み重ねています」。
これまでは、麺づくり職人の感覚にのみ基づいた作業が、データでも裏づけられることの意義は大きい。これを貴重な財産として、小麦の素材感を失わないワンランク上の味づくりに取り組んでいる。
「バイオテクノロジーとは難しいことというイメージがあって、自分たちのような麺屋には無関係かと思っていました」。ところが、バイオ産業は、すそ野に広がりをもつバラエティに富んだ産業分野だということに気付かされた。
「バイオ産業クラスター事業に参加している異業種の経済人と交流することで、様々な刺激を受けています。先々は連携した商品を生み出すとか、販路拡大などにつながっていければいいと思っています」。 |