函館・道南では、地元の資源やオリジナルな技術を活用したユニークな企業が数多く活躍しています。
当ホームページでは、それらの企業を取材し、広く全国に向けて発信しています。
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↑伊藤 智明さん
有限会社 富貴堂は現在責任者を務める伊藤智明氏の祖父の代に創立された和菓子屋で、そこで考案し製造販売していたのが「ゆり最中」。しかし父の邦昭氏が一時、別の仕事についていたため、一度閉めていたが、あらためて「ゆり最中をもう一度やりたい」と復活したという。考案当時の製法を大事に守って作ったあんこは「ゆり最中」発売再開から30年以上たった今でも変わらない。同じ時期にパン製造にも進出、乙部町で唯一焼き立てパンが食べられる店となって今日に至る。和菓子からパンまで、長い歴史の中には3代にわたって受け継がれ、磨かれてきた製造ノウハウが輝いている。
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創立 |
昭和59年10月 |
代表者 |
代表取締役 伊藤 邦昭 |
住所 |
〒043-0103 北海道爾志郡乙部町字緑町131番地 |
TEL |
(0139)-62-2024 |
FAX |
(0139)-62-2024 |
E-mail |
fukido@sky.plala.or.jp |
▲乙部町で唯一焼きたてパンも楽しめる
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昭和50年代、全国で町おこしの一環として繰り広げられたのが「一村一品運動」。(当時の大分県平松知事が提唱、世界的にも有名になった地域振興活動で、地元の価値ある資源を発見し、住民の主体的な取組みにより特産品を生み出していくプロセスを通じて地域づくりを行う、日本生まれのユニークな地域開発の成功例とされる)乙部町ではこの運動に共鳴し、特産品の「ゆり根」を使った商品を開発した。北海道で「ゆり根」というと真狩村が有名で「ゆり根」を原料とした「ようかん」などの菓子製品もあるが、「ゆり根100%」のあんこを使用している事例はなかった。乙部の「ゆり根」は生産高では真狩村に及ばないが、品質は高いとされ、「ゆり最中」は一躍乙部町を代表する和菓子となった。
ゆり根を食材として使用するには様々な苦労がある。元々ゆり根は、正月用の食材など限られた時期にしか需要がない作物で、値段も高く、需要自体が限定的。保存も難しいうえに、表面が傷つきやすく扱いも難しい。さらに育てる手間がかかる。収穫までに3年かかり、しかも途中、1年ごとに畑の移植作業が必要となるという。収穫後も冷蔵庫で長期低温熟成させる必要があるが、この期間がなんと2年間。しかしこの2年間で「ゆり根」に独特のまろやかさが生まれると智明氏は言う。途中で芽がでてしまうこともあり、貯蔵中も管理には気を抜けない。あんこ製造にとりかかる前のこうした手間から、ゆり根を100%使ったあんこの開発がいかに難しいものであったかが伺える。
試作段階で、さまざまな製法を試みたが、やはり和菓子時代の製法にこだわったものが一番良いということに落ち着いた。智明氏は「よく”ゆり根自体を(小片でも)残した商品はないか”とのお声をいただくのですが、残念ながら”ゆり根”自体が日持ちしない食材のためあんことするのが最も製品の質と味を保つことができるのです。」という。
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▲乙部町の特産品「ゆり根」
▲「ゆり根100%」使用のあんこを使った「ゆり最中」
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防腐剤や添加物は使わず「ゆり根100%」のあんこで丹念に練り上げた「ゆり最中」。そのこだわりが評価されたのは平成10年「第23回全国菓子大博覧会」。晴れて「栄誉大賞」を受賞。現在は近隣の道の駅、地域のスーパー、物産センターに加えて札幌ではどさんこプラザ、関東圏では高島屋デパート(一部店舗)でも販売している。
乙部町の特産品を販売しているリンクにも出品中。「自宅にゆり最中を取り寄せたい、贈答品で送りたい」という愛好者からの直接注文にも応えている。
しかし、明るい話題ばかりではない。「ゆり最中」の原料である「ゆり根」の供給だ。富貴堂では現在乙部町産の「ゆり根」を使用しているが、生産農家の後継者難などから乙部町内での生産が今後も期待できるのかに不安があるという。将来的に乙部町以外の「ゆり根」を使用しなければならなくなった場合「乙部の代表銘菓」というブランドを守っていけるのかどうか。さらには、大きな環境変化として、和菓子自体の需要減退、そして乙部町の人口減少もあり、パン販売についても伸びは期待できない。
「ゆり最中」を中心として和菓子販売の販路を道南全域、できれば全国流通まで拡大していくことがおおきな挑戦となる。
今後の展開として、智明氏は、菓子需要が和菓子から洋菓子にシフトしていく流れをうけて、「ゆり根」を使用した洋菓子の新商品開発に取り組んでいるという。和菓子の時と違い、あんの作り方から根本的に見直をしてただいま試作中だ。「ゆり根」の上品な風味を生かした新しい味の新製品に期待したい。
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▲全国菓子大博覧会で「栄誉大賞」を受賞
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